2010年秋、愛犬のゴールデンレトリーバーを重い病気で亡くした監督、山田あかねが、先輩の映画監督に促され「犬の命」をテーマにした映画を撮ろうと思ったことがこの映画の始まり。動物愛護センターから犬や猫を救い出している人たちや、東北の震災で置き去りにされた動物を保護している人たちの活動を追いかけ始めた彼女は、4年にわたり、取材を続け、撮りためた映像は200時間を超えた。
それらの映像から、福島の原発20キロ圏内で救い出された1頭の犬「むっちゃん」に焦点をあてたドキュメンタリー「むっちゃんの幸せ」が生まれ、テレビで放送されると大反響となった。むっちゃんの声を担当したのが小林聡美だった。映像に映し出される保護犬たちと彼らを救おうとする人々に感銘を受けた小林は、山田が準備をしていた本作に参加することになった。実際に保護施設に行き、台本もないまま、取材者を演じるという難しい試みに挑戦している。
小林が参加したことにより、監督の山田自らが4年間取材してきた、200時間を超えるドキュメンタリー映像に、取材する側=久野かなみ(小林聡美)を主人公としたドラマが加わり、新しいタイプのドキュメンタリードラマとなった。ドキュメンタリーとドラマが融合することで犬と猫の命の現場でゆれる取材者の気持ちをよりリアルに描き出している。
かなみの元夫・前田役は、自身も保護犬の里親である俳優・上川隆也が愛犬とともに好演している。また、失意のかなみを励ます先輩として、1964年に、日紡貝塚バレーボールチームの映画『挑戦』をカンヌ国際映画祭に出品し、短編部門で日本初のグランプリを受賞した映画監督、渋谷昶子が出演。山田に「悲しんでばかりいないで、犬のために映画を撮りなさい」と勧めた渋谷が本人として登場しているのにも注目だ。
構成は、大好評を博した番組「喜びは創りだすもの ~ターシャ・テューダー 四季の庭~」(NHK)の演出で知られる、松谷光絵。山田あかねとドキュメンタリーを作るのは本作で3作目になる。つじあやのが手がけるやさしい劇中音楽と、メンバーが動物愛護チャリティーイベントにも参加している、ウルフルズによる主題歌「泣けてくる」が物語を彩る。“犬のためにできることを何かしたい”という思いでつながった出演者・スタッフが集結した。
いま自分ができる「何か」を模索している人すべてに一筋の光を照らし出す、真実の物語がここから始まる。
愛犬・ゴールデンレトリーバーのナツを重い病気で亡くし、傷心のテレビディレクターの久野かなみ(小林聡美)は、何をしようにも気力が湧かない。そんなとき、大先輩の映画監督渋谷昶子さんに「悲しむ暇があるなら、犬の映画を撮れ」と励まされ、犬の命をテーマにした映画を撮り始める。
飼い主のいない犬と猫は、「動物愛護センター」で一定期間保護され、飼い主や引き取り手が見つからなければ殺処分されてしまう。かなみは、センターで殺処分される犬猫や、2011年の東日本大震災後、福島の原発20キロ圏内に取り残された犬猫の姿を目の当たりにして大きなショックを受ける。しかし、取材するうち、過酷な状況から一頭でも多くの命を救おうとする人たちと出会う。
「ちばわん」は、千葉県を中心に、愛護センターに持ち込まれた犬や猫の里親捜しをする保護団体。代表の扇田桂代さんは、崩壊したブリーダーの店から46頭の犬を救い出したり、被災地の犬猫に無償で不妊去勢手術を行っている。副代表の吉田美枝子さんは、毎週愛護センターに通い、2015年までに5000頭の犬と猫の命を救ってきた。
一方、広島に本拠地を置く、「犬猫みなしご救援隊」は、シェルターを構え、1000頭以上の犬と猫を保護している。震災後には、福島の原発20キロ圏内から1400頭の犬猫を救い出した。代表・中谷百里さんは「人間のエゴで動物を殺すのは間違い。助けられる命は全部救う」と言う。彼女たちの真剣な取り組みを知ったかなみは、「自分には何ができるのか」を問いかける。
そんな折、離婚して10年になる元夫・前田勇祐(上川隆也)から連絡が来る。かなみは、犬たちの悲惨な状況を取材するだけで何もできない自分のふがいなさを告白。カメラマンの前田は、「自分たちの役目はそれを撮って伝えることではないか」と励ます。彼に背中を押されたかなみは保護されたあとの犬たちの取材を始める。震災を生き抜いた犬と飼い主の絆、保護犬を積極的に受け入れる老人ホーム「さくらの里山科」のお年寄りと犬との愛情あふれる暮らし。
行き場のなかった犬たちが新たに出会った人たちと支え合いながら生きている姿を見て、犬と人のつながりにもいろいろな形があることを知る。「嘆くだけでなく、自分でできることをしよう」そう気づいたかなみは、ある決心をするのだった。
1965年東京生まれ。1982年、映画『転校生』で初主演。ドラマ・映画と幅広く活躍しながら、エッセイストとしても「マダム小林の優雅な生活」など著書多数。
主な出演作に、『かもめ食堂』(06)、『めがね』(07)、『ガマの油』『プール』(09)、『マザーウォーター』(10)、『東京オアシス』(11)、『紙の月』(14)などがある。
はじまりは、保護犬むっちゃんとの出会いでした。
横須賀の老人介護施設で暮らすむっちゃんのドキュメンタリーで、
私はむっちゃんの声をやらせてもらいました。
それがきっかけで、たくさんの保護犬、
そしてかれらを助けようと奮闘する人々に出会いました。
ギリギリの命を全力で助ける人たちの情熱と行動力を目の当たりにして、
私はただ圧倒されるばかりでした。
そうして助けられた犬たちは、私たち人間にまたいろいろな力や喜びをくれるのです。
どの犬もみんな幸せでありますように。
1965年東京生まれ。1995年、NHK放送70周年記念日中共同制作ドラマ「大地の子」で主役を演じる。2009年に演劇集団キャラメルボックスを退団後も、舞台、テレビ、映画、声優、バラエティにと幅広く活躍している。2010年には舞台「ヘンリー六世」で、第18回読売演劇大賞優秀主演男優賞を受賞。
そのほか主な出演作にドラマ「遺留捜査」、ゲキ×シネ「蛮幽鬼」(10)、映画『二流小説家 シリアリスト』(13)、『かぐや姫の物語』(13・声の出演)など。
1994年兵庫生まれ。2011年SMA女優発掘オーディション「アクトレース」をきっかけに所属。CM「朝マック」にて注目を浴びる。2013年BS-TBS「神様のイタズラ」でドラマデビュー。
2013年NHK「夫婦善哉」では主人公の娘役、映画「円卓」では主人公の姉、三つ子役を一人で演じ分け、幅広い演技力で評価を得る。現在、ドラマ、映画、舞台、CMなど多方面で活動中。
1983年埼玉県生まれ。2008年『95kgと97kgのあいだ(蜷川幸雄演出)』で初舞台。
主な出演作に、舞台『カスケード~やがて時がくれば~』(11)、前野健太 MV『ねぇ、タクシー』(14)、CM『FUJIFILM
写真家ハービー・山口篇』(14)、NHKBSドラマ『461個の"ありがとう"~愛情弁当が育んだ父と子の絆~』(15)など。
1932年旧満州・大連市生まれ。敗戦後、鹿児島市に引き揚げ、高校を卒業。中央大学在学中に映画に魅了され、映画のスクリプターとなる。五所平之助、新藤兼人、今井正ら監督の諸作品につき師事した。1964年、『挑戦』(東京オリンピックを目指す日紡貝塚バレーボールチームの死闘を主題にした作品)が、カンヌ国際映画祭で短編部門、日本初のグランプリを受賞した。その他の主な作品は『鏡のない家に光あふれ』(96)、『兼子』(04)など。
1953年東京生まれ。犬の本能と習性に基づき、犬が自発的、意欲的に取り組む「オペラント訓練技法」を用い、カリスマトレーナーの異名をとる。先代から60年続くオールドッグセンターでは、警察犬の訓練や訓練士の養成、聴導犬の育成と普及、家庭犬のしつけ指導と問題行動の矯正などを行う。著書に『しつけの仕方で犬はどんどん賢くなる』など。山田監督演出のNHK『趣味悠々☆犬は大事なパートナー』に講師として出演
関東を中心に、250名を超えるボランティアのみで活動をする動物愛護団体。2002年、多頭飼い現場を目の当たりにし、有志にて活動を開始。殺処分ゼロを目指して「繁殖に反対」「不妊・去勢手術の推進」「行き場のない犬・猫の家族探し」を掲げている。動物愛護センターからの引き出しと譲渡先探し、野良猫の不妊・去勢手術(TNR)、多頭飼育崩壊やブリーダー廃業現場での不妊・去勢手術とレスキューなど活動は多岐にわたり、2015年までに5000頭近くの犬猫の命を救ってきた。1頭でも多くの犬猫にもう一度生きるチャンスを与えるために精力的に活動している。シェルターを持たず、各家庭で犬猫を預かる。
広島県に本拠地を置き、栃木県に活動拠点を置く、獣医師を含む専門知識の豊富な行動力のある団体として「終生飼養」と「譲渡活動」を基盤に、伴侶動物の救援活動を行う団体。1990年、代表・中谷百里が個人で野良猫の保護活動を始め、2005年、犬猫みなしご救援隊としてNPO法人を取得し、2年後に、終生飼養ホームを建設。東日本大震災発生の4日後には被災地へ入り、福島原発20キロ圏内から犬猫ほか動物1400頭を救出。2013年から広島市動物管理センターに収容された猫全頭と譲渡対象外の犬全頭の引き出しを続行し、広島市の殺処分機の使用を廃止させ、広島市と協働して地域猫活動を行っている。また現在、広島と栃木の施設では、行き場のない犬猫あわせて1300頭の保護育成を行っている。
東京生まれ。テレビ番組のディレクター、ドラマの脚本、演出、小説家、映画監督などとして数多くの作品を制作。
主な作品に映画『すべては海になる』(2010年・主演佐藤江梨子、柳楽優弥)、小説「ベイビーシャワー」「しまうたGTS」(以上小学館)、「まじめなわたしの不まじめな愛情」(徳間書店)など。2012年より、犬の殺処分をテーマにひとりで取材開始し、「むっちゃんの幸せ
~福島の被災犬がたどった数奇な運命~」(NHK総合2014年9月放送)、「生きがい 1000匹の猫と寝る女」(ザ・ノンフィクション・フジテレビ 2015年3月放送)などを発表。
BLOG:「山田あかねの一喜一憂日記」http://yaplog.jp/akane-y-dairy/
1960年神奈川生まれ。テレビ番組の構成、ディレクターとして数多くの作品を演出。2005年に演出をした「喜びは創りだすもの ~ターシャ・テューダー 四季の庭~」(NHK)は30回近く再放送され、DVD化された。
近年には「猫のしっぽ カエルの手」を企画・演出。「むっちゃんの幸せ ~福島の被災犬がたどった数奇な運命~」では構成を担当。
1962年東京生まれ。TV番組のドキュメンタリーや紀行もの、音楽LIVE、スポーツ中継、企業VPなど幅広い撮影を手がける。国内のみならず海外での撮影も数多く行っている。主な撮影作品として「NHKスペシャル」「世界の車窓から」「美の巨人たち」「ザ・ノンフィクション」「奇跡体験アンビリーバボー」ほか多数。
1977年東京生まれ。日本映画学校(現・日本映画大学)卒業後、 (株)キャバレットに所属し、多くの作品の編集に携わる。
編集作品として『本流 The 63-day
challenge』(2004)『ベニシアさんの四季の庭』(2013)。「生きがい 1000匹の猫と寝る女」(フジテレビ 2015)でも山田監督作品を担当している。
1971年静岡生まれ。映画・テレビドラマに制作部・プロデューサーとして参加。
主な作品にDVD「菅井君と家族石」(2004)、映画『JUMPER』(2008)、『チーム・バチスタFINAL ケルベロスの肖像』(2014)ほか。『すべては海になる』(2010)、「461個のありがとう
~愛情弁当が育んだ父と子の絆~」(NHKBSプレミアム 2015)で山田監督作品に携わる。
京都生まれ。1999年にミニアルバム「君への気持ち」でメジャーデビュー。ウクレレをフィーチャーした独自の音楽性とやわらかな歌声が話題に。
2002年にスタジオジブリの映画『猫の恩返し』の主題歌に「風になる」が起用。現在も年間10本近いCMソングを制作する傍ら、映画にも多く楽曲を提供している。
犬と人との絆が、こんなに強いものなのかと驚きました。そしてその大事な絆のために活動する人々がいる事を 初めて知り、感動しました。制作過程で何度も映画を見ましたが、涙よりも笑顔が心に残る作品だと思います。
つじあやの
1955年生まれ。映画の音楽プロデューサーとして音楽の制作やアーティストコーディネートなどを手掛ける。主な作品に『ピンポン』(02/曽利文彦監督)、『ジョゼと虎と魚たち』(03/犬童一心監督)、『ノルウェイの森』(10/トラン・アン・ユン監督)、『のぼうの城』PLAY BACK SCEEN(11/犬童一心・樋口真嗣監督)、『そして父になる』(13/是枝裕和監督)など多数。
1988年結成。トータス松本、ウルフルケイスケ、ジョンB、サンコンJr.の4人からなるロックバンド。1995年「ガッツだぜ!!」、「バンザイ~好きでよかった~」が一躍チャートを席捲。2015年9月、13枚目のアルバム「ボンツビワイワイ」をリリース、2016年1月27日の武道館まで全国ツアーが続く。
トータス松本はTOKYO ZEROの呼びかけ人、1頭の保護犬と4頭の保護猫の里親でもある。