- 穴澤:
- 今回は僕から「この秋にこんな映画が公開されるそうですよ」と片野さんをお誘いして一緒に試写会に行ってきたわけですが、いかがでしたか?
- 片野:
- 現実をきちんと写していているのに、怖くない映画でしたね。
- 穴澤:
- たしかにそうでしたよね。
- 片野:
- だからそういうところがすごく見やすくて、いいと思いましたよ。
- 穴澤:
-
ドキュメンタリーといっても、編集次第でわりと方向が変わるじゃないですか。
そういう意味であまり偏っていなくて、熱くなりすぎず、温度感も良かったと思いました。
- 片野:
- バランス感がね。
- 穴澤:
- それに監督の山田あかねさんが取材を通して出会った犬を、現実に迎え入れて名前を付けたっていうのがいいですよね。
- 片野:
- そう、何しろタイトルがいいなと思って。犬に名前を付けるというのは、今まで飼い主がいなかったコたちの飼い主になって、そこで責任が生じるということでしょ。
- 穴澤:
- たしかにそうですよね。片野さんの愛犬も保護犬だった過去がありますが、「マド」という名前には何か由来があるんですか?
- 片野:
- 由来はですね、夫でノンフィクションライターの高野秀行が、マドを迎えたときにちょうどソマリアの取材をしていたんですよ。その関係でソマリ語を少し勉強していて、ソマリ語で「黒」を「マド」というそうなんです。それなら発音しやすいし、「ウインドウ」という意味でもなんだか未来に開かれているみたいな感じがして、何より呼びやすいし、いいかなと思って。
- 穴澤:
- へぇ。
- 片野:
- 現地の人の発音では「マドゥー」というそうなんですけどね。大吉くんと福ちゃんの名前には、何か由来とかあるんですか?
- 穴澤:
- 大吉は、前に富士丸をもの凄く可愛がってくれている編集者がいて、その人にお願いして考えてもらいました。命名用紙みたいのあるじゃないですか、わざわざそれを用意していくつか候補を書いてきてくれたんですが、その中にあったのが「大吉」です。
- 片野:
- 赤ちゃんに名前を付けるときみたいな紙でしょ?
- 穴澤:
- そうです、すごく真面目な人でね、悩みすぎて熱出したとか言って(笑)。それもあってか、富士丸と同じように大吉のこともすごく可愛がってくれますし、大吉もその人のことが大好きですね。
- 片野:
- 福ちゃんは?
- 穴澤:
- 僕はあまりネーミングに自信がなかったんで、嫁が挙げ てくる名前をひたすら「それは駄目、それも駄目」と却下していく中で、「福助、なら、ま、いいか」と思って決めた感じですね。
- 片野:
- それはやっぱり大福コンビにしたかったという?
- 穴澤:
- 何となく縁起がいいかなと思って(笑)。でも僕ってあまり自分で名前を付けたことはないかも。「富士丸」という名も僕の師匠が付けてくれた名前ですし。
- 片野:
- そうなんだぁ。珍しいですよね、意外とみんな自分で付けたがるのに。
- 穴澤:
- なんかね、ゴッドファーザーがいた方が、僕にもしものことがあったときに面倒見てくれるじゃないかと思って。
- 片野:
- シチリアン的な(笑)。
- 穴澤:
- そう、実はそういう魂胆も実はあったりして。
- 片野:
- じゃあ、穴澤さんの場合は「犬に名前を付ける日」っていっても自分で付けてないですよね。
- 穴澤:
- 犬に名前を付けてもらった日、ですね(笑)。
(つづく)
1966年東京生まれ。ノンフィクション作家。2005年『愛犬王〜平岩米吉伝』で第12回小学館ノンフィクション大賞受賞。ほか著書に『犬部!』、『ゼロ!』、『旅はワン連れ
ビビり犬・マドとタイを歩く』など。最新刊は10月発行の『動物翻訳家〜心の声をキャッチする、飼育員のリアルストーリー』
現在は「マド」という愛犬と暮らしている。
1971年大阪生まれ。犬猫と音楽と酒をこよなく愛するフリーランスのライター。
著書に「またね、富士丸。(集英社文庫)」、絵本「明日もいっしょにおきようねー捨て猫でかおのはなし(草思社)」、CDブック「Another Side Of
Music(ワーナー・ミュージック・ジャパン)」などがある。
現在は「大吉」と「福助」の二頭の犬と暮らしている。
BLOG:「Another Days」http://anazawa222.blog13.fc2.com/